傘とお話

 

 

めぐらし屋 (新潮文庫)

めぐらし屋 (新潮文庫)

 

 

雨の日、目にする黄色は晴れの日のそれよりも鮮明です。

私も幼いころ黄色い傘を使っていました。いま堀江敏幸さんの『めぐらし屋』を読み返しています。独身女性の蕗子さんが、父の生前残した『めぐらし屋』と書かれたノートを巡ってゆくお話ですが、そこには深刻さや陰気くささはありません。キャリアウーマンにはほど遠い蕗子さんの雰囲気が作品全体をやわらかく包んでいます。

 

冒頭の、黄色い傘を巡るお父さんと蕗子さんのエピソードが大好きです。

小学校で保管されていた黄色い置き傘を、一年生のとき一度だけ使った蕗子さん。その傘が忘れられずに絵に描いてお父さんにプレゼントしました。そしてお父さんはその絵を〝めぐらし屋〟のノートに貼っていたのです。

 

私の父も、下手な馬の刺繍のしてある眼鏡入れを大事にしてくれたり、競馬新聞を似せてつくった〝馬しんぶん〟を大切にとっておいてくれたりします。

母と娘ほど仲良くなくて、でも母が許してくれないことをあっけらかんと許してくれたり、おもわぬところで助けてくれたり。

父と娘の関係は本当に不思議です。そういえばもうすぐ父の日。なにを贈ろうか頭を巡らせてみます。