嵐の立秋

 

西日本の豪雨からひと月と少しが過ぎた八月七日、関東地方では台風が近づき、雨の立秋となりました。涼しさが舞い込んでしぜんと『古今和歌集』の藤原敏行の歌がおもい浮かびました。

 

秋立つと目にはさやかにみえねども風のおとにぞおどろかれぬる

 

恋の歌でもなく、技巧もなく、とてもすなおな歌とおもいます。立秋という題で詠まれた儀礼的な歌ですが、覚えやすく学生のころから好きでした。さいごの〝おどろかれぬる〟が耳に残ります。

 

年を重ねてから、お盆を過ぎると風が変わると感じるようになりました。陽射しはまだ厳しく、暑さも収まる気配もありませんが、確かに風は変わります。敏行朝臣のとおりです。

 

和歌に触れる度におもいます。昔の人々にとって自然は今の私たちよりもはるかに近しく、また恐れるべき、尊敬すべきものだったのだろうな、と。人工物も化学的なものはもちろんなく、空気は澄み、騒音もなかった時代。鳥や虫の聲、水のせせらぎや葉擦れの音も明朗にきこえていたでしょう。きれいな空気で草花の色彩も今より鮮やかだったかもしれません。

 

そうして歌の詠まれた時代の人々と自然との関わりをおもい描かない限り、和歌をしっかり理解することはできないのではないかとおもいます。

 

自然と人との距離、古人と現代人との自然観のちがいを感じながら、秋のはじめの風を待ちます。